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2011強化_05
2011強化_05
※強化作品は連作となっております。できれば01からご覧ください※



薄紅




「リースさ、お化粧してみない?」
さり気ない風を装って声を掛ける。予想どおり目をまん丸にしたリースがそこに居た。滅多に見られない表情を見られて運がいい、と、内心指を鳴らす。顔が自然な笑みの形に崩れるのも正直仕方ないと思う。自然の摂理というものだ。
しかし、すぐにリースは眉を吊り上げた。
「こんな時に…何を考えているんですか?」
リースがそう言うのも無理はない。自分たちは世界の命運を賭けた戦いの旅の最中で、マナの封印が解けたことによって甦った神獣との戦いの最中にある。そんな時に身を飾るなど…と考えるのはいかにもリースらしい思考。不謹慎だと言いたいのに違いない。予想の範囲内の反応だ。
「うん、だからこそ、だよ」
理解できないという顔でリースが目を瞬いた。微笑んで、言を継ぐ。
「厳しい戦いの最中だからこそ、適度な気分転換や息抜きは重要だと思わない?」
「だからといって…」
「化粧ならアンジェラもいつもしてるだろ?それでなくても、リースは集中しすぎて肩に無駄な力が入ってる。この前のランドアンバー戦だって…」
言いかけた時、リースが顔を顰めるのがわかったので慌てて口を閉じた。
失態はあまり思い出したくない。そう顔に書いてある。
リースのご機嫌を損ねては元も子もない、急ぎ軌道修正しなければ。
さり気ない咳払いをひとつ、出来る限り優しい声色で、リースを思ってのことなのだという気持ちが伝わるように続きを言葉にした。
「…とにかく、俺はリースが心配なの」
クラスチェンジして新たな力も手に入れたけど、慣れない力は逆に扱い辛い。リースのような絵に描いたような生真面目なタイプは、ガス抜きは絶対に必要だ――。
見ればホークアイの熱弁が功を奏したか、リースは僅かに首肯しながら聞いている。一理あるという表情。リースは真面目だから、理論的な説得に弱い。
もう、一押し。
「…化粧には、戦いの前に気分を高揚させる効果もあってね?」
敵を威嚇し、自らを鼓舞するため顔に大袈裟な”化粧”を施す習慣がある民族の話を聞いたことがある。その実話を使って、上手くリースをその気にさせなければ。
「実はしてるだけで、戦闘力の底上げ効果が得られるらしい。ま、リースのパワーアップには及ばないけどさ」
これからの戦いは厳しさを増す一方、眉唾でもやってみて損はないんじゃない?
果たして、顔を上げたリースの瞳は輝いていた。
「お化粧、してみます。教えてください」
ホークアイは心中で大きく万歳をした。


「リース…表情、ガチガチ。そんなに力入れてたら、きちんと粉が乗らないよ」
「は、はいっ!…こうですか?」
「うん…悪くない。少し、そのままで居てね」
「はいっ」
「返事、する度に肩が跳ね上がってるよ」
「ええっ?そんなことないです!」
面白い。神妙な顔をして化粧を任せてくれるリースがあまりに緊張しているから、面白くて可愛くてたまらない。
勿論そんな事を口にすれば一瞬で臍を曲げ、化粧どころの騒ぎではなくなるだろう。だから全力で真剣な顔が崩れないよう勤めなければならないのだ。そう言い聞かせて、緩みそうになる口元をなんとか引き締める。
元々何も付けずとも肌理細かい彼女の肌は、白粉の効果でよりなめらかさと輝きを増した。
こんなに近くで彼女の肌を、表情を見られるなんて。
リースに化粧を施したいと思ったきっかけ、その一部は間違いなく達成された。
「次は、紅だよ」
「はい…それ、ホークアイが用意してくれたんですか?綺麗な色…」
アンジェラが付ける色とは違うことに気付いたのだろう。そうだよ、と肯定してやって、指の腹で濃すぎない紅を掬った。
「唇、自然にしていてね」
「はいっ」
また、跳ねた。
ちっとも慣れない反応に気を良くして、固く眼を閉じたリースの唇にそっと指を添える。

本当は紅など付けずとも十分自然に色付いた唇。しかしそれでもこの色を乗せてみたかったのだ。
街で道を訊こうと入った店で偶然に見かけ、一目で気に入った。リースにきっと似合うだろうと先ず思った。
そして実際にその色を唇に刷いてみたとしたら、きっと何も付けない彼女の色が一番だと思い直すだろうな、とも思った。
虚構で飾り立てずとも、リースはそのままで十二分に美しい。
飾ることを知らぬ女だから惹かれた。
同時に、飾ったとしたらどれだけ美しくなるだろう、という誘惑にも駆られた。
矛盾する二つの気持ちだったが自分にとっては双方が真実で、ならば実際に試してみたいという好奇心を抑えられず、商品を購入していた。

指先が初めてリースの唇に触れ、そのやわらかさに心臓が跳ねる。
息をするのも忘れて紅を塗る。いや、指先は既に内心の欲求に忠実に、そのやわらかさを堪能し尽くそうとしていた。
リースの肩が、震えている。まるで初めて口付けたときのようだとふと思う。
自分はリースに気持ちを伝えてはいない。きっとこの先も伝えることはないと思う。自分の気持ちはリースの将来の妨げにしかならないと知っているから。
それなのに、リースの唇に触れ、そのまま貪る幻を見た。来るはずのない未来とそれを求め希う指先。
さて、虚構で飾っているのはどちらか。
心の奥の欲求も、日々成長するばかりの想いも、固く自らを戒め続けているというのに、もう簡単に溢れてしまいそうだ。
瞳を閉じ唇を委ねてくれるリースの表情、肩の震え、やわらかな肌の感触と温度。
それらをせめて忘れぬように強く記憶に焼き付け、静かに指を引いた。

「…できたよ」
ホークアイの声を合図に瞳を開き、ふっと息を吐いたリースに手鏡をさし出してやる。
鏡を覗いてたっぷり戸惑ったのち、小さく「ありがとうございます」と聞こえた。

「…これで、強く、なれますね」
「そうだね。俺もリースに負けないよう化粧しようかな」
見上げるリースの面。ホークアイの手で創り上げた、虚構の姿。しかしそれすらもリースであればかけがえ無いほど美しい。
そして自分は、満足感と寂寞感にこころを苛まれて途方に暮れる。

リースの瞳を見つめながら、指に付着したままの紅を、静かに自らの唇の上に滑らせる。
彼女の唇の上を、飾った薄紅を。
リースの驚愕の表情もまた、次第に紅に染まった。虚構で飾った色ではとても敵わない、リースの色。
ああ、本当に見たかったのは、これだった。
誰にも真似できぬその色に心から満足し、紅を乗せた唇を笑みのかたちに刻んでみせた。



タイトルは、「うすくれない」と読んであげてください。や、何でもいいですが(どっちよ)


ホークリ強化企画サイト様*ホークリ強化期間企画サイトさま
2011.02.09 Wednesday
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